2004年5月27日。
初めてのアラスカ・・・。
緊張と不安を抱える中、アラスカ州南部にあるKetchikan(ケチカン)へと飛行機を乗り継ぐ。
無人の地でカヤックを漕ぎ進めたい!ただその一心だった。
コンパスと地図だけが頼りのこの旅。
一体どんなものになるのだろうか?
高まる期待と不安を抑えながら、目的地までの船に乗る。
遂に5日間のシーカヤックの旅が始まった。
2日前にAnchorage ( アンカレッジ)からここケチカンに来て、その足でシーカヤックのレンタル交渉、クルーズ船の手配、食料の調達の全てをやった。
まるっきり知らないこの地での手配はなかなかスムーズにはいかなかったが何とか実現した。
正直、期待と不安が入り交じっていて、若干不安が勝っていたような気がする。
クマが生息するこの無人の地にテント泊をしていこうというのだから、怖くても当たり前だと自分に言い聞かせていた。
人間のいない自然の中で自然と向き合う。これが今回のテーマだった。
ついにMisty Fjords National Monument エリアでの5日間のカヤック旅が始まった
ケチカンはアラスカでも4番目に大きな都市で、アメリカからタイタニックばりの豪華客船が寄港する港町だ。
寄港した人々は思い思いに好きなアクティビティーを楽しむのだが、そのなかにMisty Fiordsにクルーズに出かける人達がいる。
その船に我がカヤックを載せていってもらって現地で下ろしてもらったのだ。
船の中には温かそうな服を着た人達がクルーズを楽しんでいる横で、全身をカッパとカヤック装備で身に包まれた我々がいた(今回は妻も同伴です)。
そして、4日後の10時に必ずここにいるんだよ、という言葉と不安だけ残して船は去っていった。
さぁ~どうするか。
とりあえずは地図を見てプランを立てるぞ。
時間はまだ11時。
簡単にお昼を食べて、Rudyerd Bayの奥まで行ってみることにする。
とにかく距離感が分からない。
こんな広がりは日本ではまず味わうことは無い。
見えるところに全然着かないのだ。
この分だと奥まで行くのも相当な距離だぞ。
そしてこの静寂…。
シトシトと冷たい雨が落ちてくる。
フィヨルド地形の深い谷を風が吹き抜ける。
それだけだ。
本当にそれしか音がしない。
屋久島でも音がしない場面には良く出会うが、ここは静寂の深さとでも言おうか静けさが違う。
強いて例えるなら雪の積もったあの静けさに近い。
コレだ!
この無に逢いたくてここまでやって来たのだ。
心にじ~んと染みいるものがあった。
上陸できそうな岸を見つけたので、クマに備えてクマスプレーを腰に付け、クマ鈴を鳴らしてから上陸してみる。
何しろここはクマが支配する世界なのだから…。
ここまで漕いできて気付いたことは、とにかく上陸ポイントが少ない。
陸が急角度で水中に沈み込んでいるのだ。
初めて経験するフィヨルド地形を体に取り入れていく。
これから先は、上陸ポイントを地図で予想してから行った方が良さそうだ。
上陸してしばらくすると、岸の奥に広がる森が気になり出す。
恐れていてはここまで来た意味がない!
暖簾(のれん)をくぐるように藪をくぐり抜けると、そこには苔で覆われた世界が…。
あ~、クマ達はこんな美しく尊厳な世界で生活しているのかぁ…。
(写真中央の茶色い点がグリズリー)
雨が止んできた。
カヤックを漕ぐ手も軽やかになる。
さ~、そろそろこの入り江で最も奥に位置する場所に着く。
地図上では小さな小さなこの入り江だが大分漕いできたなぁ~。
最深部が見えてくると予想通り平らな草原が広がっていた。
潮が満ちてくるので艇を大分奥まで上げておかなくては。
アラスカは北極に近いため、潮の干満差が非常に大きいのだ。
それにしてもクマがいそうな場所だ。
クマは怖いが是非逢いたい!
カメラを片手に奥へ奥へと進んでいく。
すると遠くにグリズリーがいるではないか!
まだこちらに気が付いていない。
200mmの望遠でもまだまだ遠い。
無数の足跡や糞がさっきまでここにあのグリズリーがいたことを証明している。
追えどもグリズリーは森に帰るため歩き続ける。
こちらにも気づき、立ち止まる気配は無い。
近寄れなかったがとてつもなく興奮した。
グリズリーとの出逢いに感動し、今だ高鳴る胸を押さえきれずに振り返って艇に向かう。
ふと顔を上げるとそこにはかつて氷河によって削られたU字の谷が広がる。
これだ!
この圧倒的な自然の力。
自分がいかに小さい生き物であるかを空気感だけで伝えてくるようなこの自然に逢いたかったのだ。
武器を持たない人間の弱さをまざまざと突きつけられた。
そして何故かそれが嬉しかった。
自然の力によって、自分の感性が最大限に内から湧き出てくるのを感じた。
カヤックに乗り込み帰路につく。
風が出てきた…。
早めに漕いだ方が良いな。
若干ペースを上げて岬を回るとナント3頭のグリズリーの親子が草を食べているではないか!
急いでスプレースカートを剥ぎ取り、望遠レンズを取り出して構える。
まるで夢のようだ。
念願のグリズリーとこの距離で出会えたのだ。
200mmの望遠で、しかも揺れるカヤックの上ではこの写真が限界だったが、実際は本当に大きく見えた。
やがてこちらに気づき、しばらく草を食べ続けた後森へゆっくりと帰っていった。
あ~、初日からこんな幸せな出逢いの連続でいいのだろうか…。
感謝せずにはいられなかった。
そしてフロート(クルーズ船用の浮いたデッキ)に戻りテント設営。
ここならあのクマ達を心配する必要は無い。
いよいよ明日はこのRudyerd Bayを漕ぎきり、更に巨大な運河を渡って大陸側に向かう。
明日は相当漕ぐぞ…。
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